『お電話ありがとうございまっす! 深夜でも絶賛営業中! クロでーすっ』


祠稀の携帯を拝借した僕は、クロに電話をかけていた。


「僕だけど」

『……おおっ!? その声はパーカーちゃんじゃないですかぁ~。なんだなんだ。あたしになんか用ー?』

「医者を紹介してほしいんだ。病院勤めじゃなくて、個人でやってる人。腕のある人がいい。クロなら知ってるでしょ」


数秒の沈黙のあと、クロは察したらしく『はっはぁ~ん』と楽しげな声を出した。


『しぃ君、返り討ちにあったか、勝利はしたものの無傷とはいかなかったんだ? ふんふん。紹介してあげてもいいけど、わかっててあたしに電話してきたんだよねえ?』

「お金ならどうにかする。クロ、急いでるんだ……」

『あっは! 斟酌、斟酌……ってことで今夜のクロは特別大サービスしちゃうぞぉ! お金はイリマセーンッ! ま、今回は代償を払ってもらうけど』


声のトーンを落としたように、クロは浮かべていた笑みを嗜虐的なものに変えただろう。


「なにをすればいいの」

『名前を教えてよ』

「……、」

『もちろん本名だよ。苗字と名前、フルネーム、戸籍名。調べれば嘘だってわかるからね』


鼓膜を震わせるクロの目論みに、恐怖を感じなかったわけじゃない。


それでも出した答えは揺るがなかった。


クロが元気よく『ハイ、大きな声で言う準備はできたかなー?』と言ったので、ゆっくり深く息を吸う。



『きみの名前はなあに?』