Hamal -夜明け前のゆくえ-



「……」

「堂々としてろ」


掴まれていた腕を離され、1歩先を歩く祠稀のブーツを眺める。


気持ち程度に顔を上げれば、見える後ろ姿。ピンと伸びた背筋。


暇そうに後ろへ流れる景色を見遣る横顔。ふわふわと揺れる髪の毛。気だるそうに、だけど迷うことなく前に進むブーツ。



ぐ、と背筋を伸ばし、もう少しだけ顔を上げて背中を追いかけた。


自分を連れて歩く祠稀ができるだけ、恥ずかしく思わないように。




辿り着いたのは小綺麗な3階建てのアパートだった。


3階の一室で立ち止まった祠稀はインタホーンではなくドアを2度叩き、ここは祠稀の家ではないんだと察した。


この家に連れ込まれた時点で危ないことになったらどうしよう……。


逃げるにも、他に行くところがない。


聞こえる足音に嫌な想像を張り巡らせているうちに、家の主人が戸口を開けた。


「――わ。やっぱり祠稀」

「おじゃましまーす」

「ええ!? 来るなら来るって連絡しなさいってば!」

「緊急だったんだよ」


……女の、人。


するりと中へ入ってしまった祠稀に振り返っていた女の人は、外に取り残された存在に気付く。


慌てて俯いたけれど、目に入ってしまった女性の乱れた格好に、どうすればいいのかわからないのは変わらなかった。