変わらないものなんてないと、祠稀は言っていた。


どれだけ些細で実感する人間がいないように思えても、僕が思っている以上のスピードで、多くの物事が変わっていくのだと。


そこに自分の意思が反映される人間は、ごくわずかだろうと。その人間もまた、強さにあぐらを掻けば誰かに出し抜かれると。


僕は黙って聞きながら、漠然と、祠稀はそのごくわずかな人間になりたいのだと思った。


くすぶる憎しみが、望まぬほうへ変わってしまう前に。


そんな祠稀はなんだかとても、生き急いでいるようにも見えた。







――1日1日が、以前よりずっと早く過ぎ去っていく。


それは胸の奥に潜んでいた黒いものが薄まって、前よりは恐ろしくなくなったから。


繋ぎ止めておきたい幸せが、僕にも感じられるようになったからなんだと思う。



「おかえり、壱佳」


戸口を開けるとすぐ、台所に立っていた母さんに声をかけられた。


「今日も遅かったのね。学校どうだった? 楽しかった?」

「……うん。まあまあ、それなりに」

「そう、よかった。ね、壱佳。今日は一緒に夕飯食べられる? 壱佳の好きなオムライス作ってるの」


にこにこ笑顔を浮かべる母さんから脱いでいるスニーカーに目を落とし、「あー……」と迷った声を出す。


「うん。でも僕、食べたら出かけると思う」


それからオムライスが好きなのは、僕じゃないよ。