でも、一緒にいてくれる祠稀に『僕なんか』って自分を蔑むことを言うのは失礼ってことは、なんとなくわかる。


だって僕が祠稀に『俺なんか』って言われたら、いい気はしない。


「うん、わかった。……でもやっぱり祠稀は、すごいよ」


誰も言わなそうな、行動しそうにないことをやってのける。


だから僕の感謝も羨望も受け取ってほしいんだけど、


「……すごくねえよ」


否定する祠稀は案に違わず、照れているわけじゃないようだ。


「でも僕はすごいと思ってるから、それでいいや」


祠稀自身が認められなくても僕が思ってるだけならいいはず。祠稀が比べるなって言っていたのは、そういうことでしょ?


眉を顰めてくる祠稀のそれを一笑に付した。


そうしてやっと祠稀も諦めたように微笑み、


「帰るか。雨うぜーし」


と僕の後頭部を押して一歩を大きくした。



――ねえ、祠稀。


僕はほとんど確信してるけど、いつか教えてくれるときがくるかな。


祠稀が、闇夜の威光にいたころの話。


どんな人に声をかけられて、どんな時間を過ごして、今どう思ってるのか話してくれるときがくるかな。


本当にたったひとりの生き残りだとしても、今の祠稀はもう、ひとりぽっちじゃないよね?


俯いてもどうか、隣に影が並んでいること、忘れずにいて。