「あ、これどーぞ。もうぬるいかもしれないっすけど」
狭い家の中ではタオルを取りに行くにも十数秒で済み、祠稀の声もテレビの音も筒抜けだ。
台所と居間の境目で立ち止まると、祠稀が義父へ缶ビールと釣り銭の入った袋を差し出していた。
ぎこちない顔、してる……。
こんな深夜に、平然と家に入ってきた見知らぬ誰かを怪しむのは無理もない。
「グラス持ってきます? あ、俺でよければ注ぎますよーっ」
「や、いいよっ……このままで、」
声量を上げた祠稀につられたのか、本気で止めたいのか、酔いがさめたらしい義父は大きく左右に手を振った。
「お酒好きなんすねー。明日は仕事休みっすか?」
「……いや、もう、寝ようと思ってたところだよ」
「あー。そうなんすかー」
コミニュケーションを取ってる? ようには、見えないな。
僕が知る限り、祠稀は誰であろうと口調は変えないし。なにやってんだろ……。
「なら、ほどほどにしたほうがいいんじゃないっすか? ほら……ご近所で噂になってますし、ね」
手持無沙汰で立っているだけだった僕は大きく目を見開いた。
それは義父も同じだったようで、反射に逆らえないように僕へ視線を移してきたが、なにも思わなかった。思えなかった。それほど祠稀の言動に衝撃を受けていた。



