Hamal -夜明け前のゆくえ-



どうしてそこまで……。


僕は祠稀の傷を見たことがある。背中だけでも目を覆いたくなるほどの傷を。


許せないと思う。許されることじゃないと思う。


だけど家族というものが祠稀にとって憎しみの対象でしかないことが、それを今確かな事実だと思えてしまったことが、苦しかった。


わかり合えない。

わかってあげられない。


だって僕は、義父も母さんも化け物だと思ってはいるけど、怒りも、憎しみも、感じていないんだ。



溜め息ひとつ零した祠稀を見ると、やっぱり微笑を浮かべていた。


先程までの形相はなんだったんだろうと思うほど、柔らかな笑みだった。


「だから俺は、気が済むまで付き合ってやるんだ。俺が居て幸せなあいつらが、俺が居ることで幸せじゃなくなる瞬間を見られるなら、俺は今なにをされたっていい」

「……わかんないよ」

「だろうな。俺もお前の気持ちがわからねえよ。がっかりしたか? 期待外れだろ」


それは祠稀の台詞じゃないか。


祠稀の言う夢物語を語った僕にがっかりして、期待外れだったから、この前突き放したんでしょう?


それなのにどうしてここにいるんだ。どうして無理やり家に帰らせようとするんだ。


わからないよ。

僕には、祠稀がなにを考えてるのかわからない。



ぎゅうっとパーカーの裾を握り締めたときだった。


「だからムカつくんだよ」


逡巡もなく、言い切られた。