Hamal -夜明け前のゆくえ-



「俺はあいつらにとって、おもちゃだ。子供でも息子でも家族でもねえ。手に馴染んだ、遊んでて1番楽しめる、おもちゃなんだよ」


そこまで聞きたかったわけじゃないのに、ざわつく胸が五感を研ぎ澄ませるようだった。


「そういうものを持ったら、手放したくねえだろ? 壊れても直して、また使いたいだろ? 直せるとわかったら、多少乱暴に扱ったりもするだろ? 飽きるまでずっと、延々と」


……やめてよ。

どうして自分がそんな風に扱われてるって言えるの。


耳を塞ぎたくなる。


だけど、自分を飾り物にもなれない、埃を被った傷だらけの置物だと思ったことのある僕にとって、聞き流すことは困難だった。


「おもちゃじゃなくて、人間の……祠稀の話でしょ……?」

「そうだよ。人間の俺には、意思がある。……バカだよなあ。あいつら俺のこと、なにもできない、なにも考えない木偶だとでも思ってやがる」


くっ、とせせら笑った祠稀は瞬きのあいだに遠くを眺め、血相を変えていた。


「冗談じゃねえよ」


存分に積怒を帯びたその声と表情の険しさは、憎しみも含んでいるようで。僕を戦慄させたし、困惑もさせた。


「絶対許さねえ。つーか消す。でもその前に、死ぬほど苦しめ」


その怒りと憎しみが“あいつら”に向けられているものだと感じても、祠稀自身にも向けられていると思えて仕方がなかった。