Hamal -夜明け前のゆくえ-



「だからなんだってんだよ」


はあ、と溜め息を漏らした祠稀が目の前にいる。


「自分と俺を比べてんのか? 元から違う人間なのに、わざわざ比べんじゃねえよ」


僕の腕を離し、眉間にシワを刻む祠稀の目が険をまとった。


「俺が普通に受け入れられることを、お前が受け入れられねえのはそんなに恥ずかしいことか? ならお前は、自分が怖くないものを俺が怖がってたら、俺を情けねえと思うのか? ふざけんな胸くそわりぃ。はっ倒すぞ」

「そ……んな話を、してるわけじゃ……」

「してんだろーが! 俺はなんで帰りたくねえのか聞いたべや。なのになんだテメェは。祠稀だったら帰れるだろうけどって、答えになってねえんだよっ」

「だって、こんな急に……無理やり、とか」

「じゃあテメェはどうしたいんだよっ!!」


びくっと体を揺らした僕を、祠稀は容赦なく睨みつける。


祠稀は短気だけど怒鳴られたのは初めてで、恐ろしくて、泣きそうになった。


「し、祠稀には、わからないよ……っ」

「ああ? だからわかるように言えって、」

「だって祠稀は家族が嫌いなんでしょ!?」


僕の大声に驚きはしても、問い掛けには露ほどもうろたえない祠稀のそれが、答えだった。


「……嫌いじゃねえよ」


ぽつりとこぼした祠稀は言う。


「心底憎いだけだ。毎日、毎日、消えろって思うくらいな」



ほら。そんな人に、僕の気持ちなんてわからない。