「どこの酔っぱらいかと思えば」
「――……、」
いつ落としたのか、すぐ横に転がる缶から流れ出たビールを、レザーブーツが踏んでいた。
「まさか飲んで即吐いたんじゃねえだろうな。だとしたら酒弱すぎねえか? お前アレだな。絶対アルコールのパッチテストの授業で笑いもんだな」
見上げた先には相変わらず気だるげに立っている祠稀がいた。
「ちなみに俺は全く赤くならなかったけどな」
風は髪の毛もなびかせていたから、祠稀の顔がよく見えて。
止める術もなく、ぽろりと涙を落としてしまった。
「祠稀……」
本物だ。唯一絶対だ。
祠稀はこんな世界でも瞬くことをやめない……僕の、光。
「なんで、ここに……」
そう問うが、祠稀は僕や周りの様子を眺めたあと「おつかいか」と口にする。
「早く帰らないとじゃねえの?」
「……帰りたくない」
「なんで」
遅いと殴られるのが怖いし、義父に酒を与えたくもない。
ただ帰りたくないと駄々をこねているだけでもあるし、帰らなければと思った自分をなかったことにもしたい。
黙っていると祠稀は手首に引っ掛かったままだったビニール袋を取り上げるのと一緒に、僕を立ち上がらせた。
「帰んぞ」
僕の腕を引っ張って歩こうとした祠稀とは反対側に足を出した。
相反した互いの進む方向に、祠稀は振り返る。



