苦しさから涙が滲む。
気持ち悪いし、汚いし、どうして吐いてしまったのかもわからなければ、義父に怒られると一瞬でも考えてしまった自分を消してしまいたかった。
吐き気の第二波が来たあと、若葉の香りを乗せた風が空き地に生える雑草をさわさわと揺らす。
のろりと視線をあげた僕の目に映った景色は、ひどくおぼろげだった。
朝よりも昼よりも夜のほうが好きなのに、暗さが怖いなんて。
深夜の住宅街はどこまでも静かで暗く、何軒かは橙色や白色の明かりをひと部屋分ぽつんと点している。
僕が肩を預ける電柱は、取り付けられた街灯で今日も朝まで歩道を照らすのだろう。
必要な分だけ。必要な時だけ。
ぼうっと一か所だけ暗闇に射す明かりが点在しているから、僕は暗さが怖いのかもしれない。
どうしたって明かりを目指してしまう。
いつかは消えてしまうのに、引き寄せられる。
まるで月明かりよりも電灯を選んで落とし穴にはまる虫みたいに。
いっそのこと真っ暗なほうがいいって思う。そしたら引き寄せられることもないだろう。
世の中には探さなくても明かりがあるのに、僕が見つけたそれはいつも途中でぶつんと消えてしまう。
照らされていたはずの居場所が暗闇と同化する。
別の場所を探しても、結局はまた同じことの繰り返し。
ずっとそこに在り続ける光なんてない。
「もう嫌だ……」
こんな世界で生きるのは、怖すぎる。



