「あー……ちょうどよかった」
握り潰された缶ビールのひしゃげる音に、歩み寄ってくる義父の足音に、ごくりと唾を飲み込む。
夜中に抜け出したあと、こうして起きている義父と鉢合わせたのは初めてだった。
だから、僕の身に今からなにが起こるのか見当もつかなくて。
深夜と早朝の狭間、この人はどんな顔を持っているのか。
「あそこ。バス停近くのコンビニとかな、だいじょーぶだから」
「……え?」
「同じの買ってこい」
どん、と。5千円札と一緒にひしゃげた缶ビールが胸に押しつけられた。
「え……で、も、僕じゃ……」
「いぃーからっ! 買ってこいってのっ」
舌打ちをされたら二の句が継げなかった。そうしているあいだに無理やり体を反転させられ、パーカーのポケットに5千円札を押し込まれる。
背中を突き飛ばされ、有無を言わせないかの如く、
「早くしろなー」
と、戸口も閉まった。脳裏には缶ビールのパッケージが浮かんでいた。
……ビール? 抜け出していたことを咎めるわけでもなく、人目につかないよう閉じ込めるわけでもなく、パシリ?
微かに震えていた自分の身体に、ぎゅっと拳を握る。
殴られなかっただけマシじゃないか。
それからコンビニへ向かった僕は、缶ビールの入った袋を持ってバス停を通り過ぎるまで、自分がなにをしているのかわかっていなかったように思う。