いつも思う。

あの手は母さんにだけ優しく触れることができて、僕には同じようにできない欠陥品なのだと。


台所と居間の中間で気を失っていた僕が目を覚ますと、ふたりは寝室でセックスを始めていた。


酒癖が悪いにも程がある。所詮は男と女なんだろうけど、さほど意味がなくとも襖はきちんと閉めるべきだ。


おかげで以前は聞き慣れなかった母さんの鼻にかかった声も、例えようのない行為の音も今は気持ち悪いものでしかなく、耳に入った瞬間外へ出るようになった。



……そろそろ終わったかな。


本当は祠稀のところへ行こうかなと思ったのだけれど、今日もやめておいた。


突き放されたと感じた日から、なんとなく祠稀を避けている。


祠稀からも連絡が来ることはないまま、5日が経ってしまった。


携帯で確認した時刻は深夜1時半過ぎ。


アパート近くの公園で時間を潰し、ふたりの情事が終わり眠りについたころを見計らう機会は今日まで何十回もあった。


一度も見誤ったことはないからこそ、玄関を開けた僕は驚いた。


ちかちかと色味を変える明かりが居間にあり、それは音量が控えられたテレビから発せられているもので、義父が起きていたせいだった。


ゆらりと僕に視線を向けた義父の手には、缶ビール。