Hamal -夜明け前のゆくえ-



「なんだよ」


眉を寄せた彼にはきっと、美少年という言葉がぴったりだと思えた。


なにより薄暗い路地裏で堂々と背筋を伸ばして立つ彼には、弱さとか、臆病とか、不安とか、そんなものは一切当てはまらなかった。



「……な、まえ……が、知りたい……」


ぽつり、ぽつりと零れた言葉は、二度目の質問。


なぜ声をかけてきたのか、なぜ手当をしてくれようとするのか、歳はいくつなのか、深夜にこんな場所でなにをしているのか。


聞きたいことは山ほどあるのに、今もっとも知りたいのは名前だった。


「名前……教えてほしい」


風はもうやんでいた。彼の顔もまた、乱れた髪に覆い隠されてしまっていた。


それでも自分の胸にぽっかりと空いた隙間に風は流れ込むようで、彼からは心惹かれてやまないなにかが放たれている気がする。



「――シキ」


声も、容姿も、態度も、少しもたゆたわない彼を見つめた。


「ほこらにまれって書いて、祠稀。クソみてえな名前だろ?」



凛とした美しさ。


それが彼――祠稀から感じた印象だった。