Hamal -夜明け前のゆくえ-



多くの人が寝静まった住宅街を抜け出した足で、祠稀の家へ向かった。


携帯の明かりを頼りに階段を上り、深呼吸をしてからドアを開ける。鼻腔を刺激する、煙草の臭い。


連絡はずっと取り合ってなかったけど……なんとなく、いる気がしたんだ。


ソファーには、手の甲で両目を覆った祠稀が寝転がっていた。


テーブルには、火を付けたまま放置された煙草が、お香のように灰皿に立て掛けられてあった。


ジャリ、と。ソファーの前で立ち止まった僕はひと言、


「久しぶり」


と声をかける。しかし返事はない。


寝てるのかな……。まだ深夜1時前なのにめずらしい。どことなく、ぐったりしているように見えるけど。


動かずにいると、やがて祠稀は手を頭の上にやり、僕を見上げてきた。


「なんだ……戻ってきたのか」


ふっと微笑んだ祠稀のそれは弱々しく、僕の胸には急速に積み上げられる感情があった。


……戻ってきた。戻ってきたよ。


そばにいたいと思える祠稀がいる、この場所に。



「なに、お前。その変な顔」

「べ……っつに、ふつうだよ」


まずい。祠稀の目線では僕の顔が見えるんだ。そう気付き、フードを目深に被り直してしゃがみ込む。


それでも泣きそうな気持ちなのは変わりなかった。


「もう来ねえと思ってた」

「……、」

「クロに聞いて、お前はもう戻ってこねえもんだと思ってた」