言葉が伝わらずに死んでいく恐怖はあっても、『顔はやめて』なんて二度と言わない。
どこであっても痛いんだ。傷が残る可能性があるんだ。
そんなことばかり考えて、やり返すことは相変わらずできない自分が嗤えた。
負けることが怖い。逆上されるのが怖い。もっと悪化するのが怖い。
それでも、このままの僕全部で戦ってみせる。
勝ち負けなどいらない。立ち向かう勇気があれば、あったと思えれば、それだけでいい。
この先にも見い出せる光はないままかもしれないけれど。
こんな毎日は、死をもってしか終わりは得られないんじゃないかと思う自分にだけは、もう戻りたくないんだ。
どんっと壁に押しつけられ、義父の腕が顎の下に入り込んだ。
滲んだ涙は、気道を圧迫される苦しさのせいじゃない。
母さんが僕を見るのをやめたせいでも、義父が冷たい目で僕を見下ろすせいでもなかった。
「や……めて」
期待したって僕の声は一生届かないんだろうと実感してしまったことが、悲しかった。
僕がふたりの輪に混ざることはないんだろうと改めて思ってしまったことが、寂しかった。
祠稀は……嗤うかな。
さっさと見限ればよかったんだよって、言うかな。
だけど僕はね、この暗くて狭い箱の中に、生きるための光をとぼしてみたかったんだ。
心のずっとずっと奥底で、願っていたんだよ。



