もう、いいかげん諦めはついたはずなのに。なんで待っているんだろう。なんで受け身でいるんだろう。
怖くて、痛くて、悲しくて、情けなくても、僕は負けたくないと、ずっと思っていたじゃないか。
だから祠稀に惹かれたんじゃないのか。
負けずにいる祠稀に、戦う祠稀に、強く在ろうとする祠稀に憧れたんだろう、僕は。
「――っやめて!」
これが僕の小さな反抗でも防御でもないことが、ふたりにはわからないだろう。
お願いしたら僕の負けな気がしてできなかったことも、知らないだろう。
斑に色褪せる畳へ横たわる僕の願いは聞き入れられた。それがわずかな時間でも。
腕を掴まれ起き上がらせられた僕の目に、見向いた母さんが映る。義父の顔は見られなかった。
「……やめて。お願いだからもう……やめてください」
懇願だった。
僕にとっての最大の防御は、逃げたふりをすることだった。
夢ではないことが明確な現実から目を逸らすことで、その場その場をしのいできた。
情けなさが募っても、痛みが蓄積されても、他にどうすればいいのかわからなくて。
『やめて』のひと言が出なかった。そんなことは些細すぎて、あっけなく消えてしまうものだから。
言い続ければ必ず届くと思っているわけじゃない。
大声で叫べば隣人が助けてくれるかもしれないなんて易しい夢は見られない。



