「もっかい言うぞ。動けんなら来い。手当してやっから」
「……」
そんなこと言われたって、困る。
だけど気付いていた。差し出された手を掴むには、情報が少なすぎると思っていること。
その手を掴むために、もっと情報が欲しいと思っているってこと。
「信用できないってだけなら、いくらでも答えてやるよ。ただし、証明できるようなもんは一切持ってねえから口先だけになるけどな」
悪戯に口の端を上げた彼を視界に捉えたあと、手はすでに伸びていた。
信用したわけじゃない。
もしかしたら嘘かもしれない。騙されているのかもしれない。
そう思う気持ちがなかったわけじゃないのに、本能で伸ばした手は怯むことなく彼の手に触れる。
グッと握り返してきた彼の力強さのせいか、立ち上がる自分の体が一瞬だけとても軽く感じた。
「――っ!?」
突然フードを目いっぱい下に引っ張られたと思ったら、「あんまキョロキョロすんなよ」と彼が言った。
「待っ……!」
ジャリ、という足音に急いで顔を上げると、切れ長の瞳と目が合う。
――あ。
近づく雨期独特の湿っぽい風が吹き、伸ばしっ放しなのであろう彼の髪がふわりと靡いた。
隠れていた顔が露わになっても目を奪われてしまうなんて。



