Hamal -夜明け前のゆくえ-



「聞こえてんのか!? 壱佳っ!」


ぎゅうっとヘソの奥がよじれる感覚に背を丸める。そのままうずくまって寝たふりでもしてしまいたかった。


だけどありとあらゆる不安が暗闇から顔を覗かせるから、居間へ行くしかなかった。


息苦しくなって、肺いっぱいに酸素を吸い込みたくても、うまくいかない。


こんな繰り返しなのか、僕の人生は。


だから死にたいと思ったんじゃないのか。その常闇に手を差し伸べてくれた祠稀と過ごしてなにを思った? なにを考えた?


こうで在りたいと思った自分を、僕は本当に、本当に、忘れてしまったの?



開けた襖の先で、片膝を立てグラスを持った義父が待っていた。


ガンッ!とグラスがテーブルに叩きつけられ、義父が立ち上がる。咄嗟に母さんへ視線を投げかけるも、背を向けられていた。


この期に及んで僕はまだ期待していたのだろうか。


義父がたった数歩で僕の胸倉を掴めてしまうこの狭い箱の中で、一縷の希望でいいから見つけたかったのかもしれない。



……バカじゃないのか。


暴力をふるうためだけに僕を呼んだ義父と、テレビ画面から目を離さない母さんは、1年2年といつまで経っても変わらないのに?


壱佳と口にされるたび恐怖と虚無感を味わっているのに?


バカだ。僕は自分で思っている以上に愚かなんだ。