どうしてこんなことになるんだとまで思った。


そんな状態に持っていく自分に反吐が出るようだった。


呆れるほど馬鹿じゃないか。充分鈍感じゃないか。


早く“次”に行きたいだなんて思い上がって欲に負けたら、歯痒さが消えた代わりに居竦まって、クロに翻弄された事実だけが残った。


次なんてない。覚悟なんてしてない。


やっぱり僕の世界は拡がりを見せてはくれなくて、同じところを延々と行き来するような生き方しか、できないんだよ。


それすらも自分に意気地がないだけだと思うと、情けなくて苛立った。


あまりに情けなくて、胸に渦巻く後悔さえも処理できない。


聞くんじゃなかった。


なにもかもを知らなくたって、一緒にいたい気持ちがあれば、祠稀は僕をそばに置いてくれたのに。


強くなれよって稽古をつけてくれて、夕飯を同じテーブルで食べて、会話の節々で笑いかけてくれていたのに。


どうしてその一瞬、一瞬を、特別な幸せだと思えなかったんだろう。


どうして楽しかった時間を、不安に怯えた時間が上塗りしてしまうんだろう。


欲張りは、幸福の前に霞をたなびかせる。



「……短かったな」


憧れるだけ憧れて、終わりか。


背中は捉えられても、追いかけるだけの力がなければ、なんの意味もない。


なんて無駄だらけの身体だろう。



この日を境に僕は、祠稀に会いに行くのをやめた。