Hamal -夜明け前のゆくえ-



自分がもっと馬鹿だったらよかった。


自分がなにをしたのか、なにを感じているのか。羨望する相手も畏怖する相手も区別できないくらい、鈍感であればよかった。


その願いに終わりはなくとも、叶わない逃げであるとわかっていた。受け入れることも、受け流すこともできない。


……苦しい。


胸が詰まってソファーの上で丸くなる僕は、どうしたって独りだ。


でも――でも、クロだって祠稀だって独りと変わらないだろう。


僕と違うのは、それを自覚した上でこの街で生きているということ。目的も、手段も持っているということ。


ただ祠稀のあとについて回って構ってもらっているだけの僕とは、違う。


それのなにがダメなんだ。


僕は僕なりに色々考えているのに。


その口にできなかった反論こそが、僕の底の浅さだった。



威光について聞くってことは、踏み込むということだ。


祠稀に『聞く相手は選べ』と言われたのは、“祠稀は聞かれたくない”ってことでも、“祠稀には聞いて大丈夫”ってことでも、“別の奴に聞くなら相手は選べ”ってことでもない。


誰に聞いたってよかったんだ。


踏み込む覚悟があれば。この街で生きていく覚悟があれば。


今の僕に守られる価値はないと自覚した上で、誰に騙されたって利用されたって傷付けられたっていいと、思えるならば。