「……わかって、」
「ほんとーに?」
両目を見開きぐっと顔を近付けてきたクロの表情は、年端のいかない少女のそれとは思えないものだった。
身の毛がよだった僕を見定めるなり、彼女はにたりと笑う。
「本当にわかってる? この街で生きていきたいなら自分の立ち位置くらい自覚しなくちゃ。誰ひとり、きみ自身に興味なんかないってこと。守る理由も、価値だってないってこと。どれだけ足掻いてもきみは独りなんだってこと。本当にわかってる?」
まるで一石を投じられたみたいだった。
クロの言葉ひとつひとつが石礫のように軽くても、投げられた分だけ胸の中に積もって動かない。
それは確かに重しへ変わるから、うまく息ができなかった。言葉を返せなかった。
不意にクロが前髪に触れてくる。
息を呑み、顔面蒼白になっているであろう僕は、さらさらと彼女の指先から零れ落ちてくる前髪の感触に少なからず落ち着きを取り戻したんだと思う。
だから先程とは別人のように柔く微笑んだクロに対して、これは夢だという期待は微塵も抱かなかった。
「お金は次会ったときでいいよ」
触られている感覚が消えると同時にクロは立ち上がり、
「またね? 傷を隠すフードが目印の、パーカーちゃん」
と、僕にとどめを刺して暗闇に消えた。



