「まさか去年の秋って限定してくるとは思わなかったよ。でも残念、残念。それはあたしも噂しか知らないんだなぁ~。まあ、噂が全て嘘とは思ってないけどね」
顎を突き出すクロはどこかうっとりと細めた目で灰皿を眺め、下唇に爪を立てる。
「最近ねえ、威光は消されたって言ってる人たちのあいだで噂されてるんだよ。生き残りがひとりいる、って」
恍惚の表情を浮かべるクロは、その噂を高級食材として喰らいたいように見えた。
「火の無い所に煙は立たぬ。人の噂も七十五日というけれど、人の口には戸が立てられない」
ひとり言のように呟いたクロは、
「それなのに困っちゃうよ」
と僕に瞳を据えて微笑む。
「昔からこの辺りに住んでいる人は口が堅くってさぁ。特に裏の――中華飯店の店主、とか」
ぴくりと反応した僕を食い入るように見つめてきたクロは、なにを感じ取ったのか喜色満面の笑みを浮かべた。
「ふふ、あははっ! その顔いいね、いいねえパーカーちゃん!」
「……、クロ?」
「ねえっ、どうしてしぃ君はこのビルにいると思う? 隣に廃屋があるのに、どうしてここを選んだと思うっ? 裏の中華飯店から電気を引いていられるのは、屋上のフェンスが抜け落ちてる部分があるのは、どうしてだと思うっ!?」
僕が、自分と同じ疑問を抱いていると感じたせいなのか、興奮を隠せない様子のクロにたじろぐ。



