「それよりお前、大丈夫かよ。血は止まってるみたいだけど、もしかして動けないほど貧血? 泣くほどイテェの?」
「……」
「動けんなら来い。手当してやっから」
立ち上がった彼に続かず黙って見上げていると、人差し指と中指に指輪を付けた手が伸びてくる。
差し出されたのだと理解しても、こんな状況は初めてで余計に困惑してしまった。
……なんでこの人は、待ってる?
降り注ぐ視線から真意を探ろうと思えば、呆れたような溜め息が落ちてきた。
「お前はイエスかノーかも言えねえのか」
カッと頬が熱くなったのがわかる。その熱を処理する間もなく、彼はすぐに次の言葉を紡いだ。
「着いてくんのか、こないのか。決めるのはお前の自由だろーが」
……そんなの嘘だ。
今まで声をかけてきた人は、最初から知り合いみたいに人懐こい笑みを浮かべてきたよ。
『暇なら遊ぼう』
『お腹空いてない?』
『簡単なバイトしない?』
そう言いながら手や腕を引っ張って、見たことも聞いたこともない場所へ連れて行ってくれた。
連れて、行かれた。
戸惑っているうちに、断ることもできずに。
……淡い期待を持っていたのは、紛れもなく自分だけれど。



