けれど周りの出演者は、そんなことには慣れっこなようだった。

悔しそうな表情をしてはいるけどそれまでで。

もしかしたら彼らもあいつと同じような理由で優勝したことがあるのかもしれない、なんて。


ピアノに対して裏切られたような気持ちを勝手に抱いていた。


そんな思いを、泉水先生もしたことがあるのだろうか。

本当は今すぐにでも飛び出して行きたい。

だけど腕の中にある体温が、そうすればどうなるか考えると動けなかった。



「マゼッパ」が悲しげな余韻を残して終わる。

俺が憧れるバスキーの演奏と技術力は変わらないのかもしれない。

けれど所々に感情がむき出しになった先生の演奏は、やはりどこか拙く聞こえた。


「僕はピアノを嫌いになりたくないだけだった。何の権力にも穢されずピアノを楽しめる職業、それが講師という職だったからここにいる」

そんな理由じゃ満足してもらえないかな。


その問いかけに駒田が頷いたかどうかは、カーテンに阻まれているせいでわからなかった。