Adagioのレビュー一覧
5.0
演奏家とは、孤独なものである。
ひたすら楽譜と向き合い、背景を学び、作曲家の想いを汲み取り、練習を重ね、演奏へとフィードバックする。
その繰り返しの作業に他人が介入する隙間はない。習熟させ、高みへと到達する道程はひたすら孤独だ。ふと立ち止まれば、自分を見失ってしまうほどに…
迷える天才少年、利一。
彼の日常は、同じ主題を繰り返すうちに楽譜内で迷子になってしまったバッハ奏者のよう。
そこに現れたのは、「神の視点」を持つギャル、奏。的確に利一の弱点を突き、心に風穴を空けていく。
序盤、不協和音しか奏でないふたりが、やがてテンポを合わせ少しずつ歩み始める。利一は、果たしてゴールに辿り着けるか?
音楽は、人生そのもの。
悩みも、苦しみも、そして愛しさも。すべてを昇華した利一の演奏を、私は確かに聴いた。
ラスト、最後の一音が空に消えるまで。奏と、共に。
音楽を純粋に楽しみ、愛していた時期はもう終わった。競わなければ、巧くならなければ、人を押し退けてでも上へ、もっと上へ―――! そんな想いを抱えながらピアノを弾いて、うまくいかなくて、それでも時は残酷に進み続ける。たとえ楽しいという感情を捨て置いても、確かな恋情を忘れられなくても。 弱った彼の前に舞い降りたのは純白の天使には程遠い、色鮮やかな小悪魔。痛いところばかり突いてきて、気が強いのかと思いきやふとした拍子に脆さを晒し出す。悲鳴を上げる心を見て見ぬふりしている彼女もきっと、彼と同じイキモノ。 緩やかに、2人の世界は交わる。盤上を滑るように、優しい音を奏でながら――― *** 迷っても悩んでも、心が壊れるくらい泣き叫んだっていい。だってそれは今の自分にしか味わえないんだから。…そう言わんばかりに笑みを浮かべる彼にならって、私も存分に迷子になろうか。きっと、後悔なんかしてやらない。
音楽を純粋に楽しみ、愛していた時期はもう終わった。競わなければ、巧くならなければ、人を押し退けてでも上へ、もっと上へ―――!
そんな想いを抱えながらピアノを弾いて、うまくいかなくて、それでも時は残酷に進み続ける。たとえ楽しいという感情を捨て置いても、確かな恋情を忘れられなくても。
弱った彼の前に舞い降りたのは純白の天使には程遠い、色鮮やかな小悪魔。痛いところばかり突いてきて、気が強いのかと思いきやふとした拍子に脆さを晒し出す。悲鳴を上げる心を見て見ぬふりしている彼女もきっと、彼と同じイキモノ。
緩やかに、2人の世界は交わる。盤上を滑るように、優しい音を奏でながら―――
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迷っても悩んでも、心が壊れるくらい泣き叫んだっていい。だってそれは今の自分にしか味わえないんだから。…そう言わんばかりに笑みを浮かべる彼にならって、私も存分に迷子になろうか。きっと、後悔なんかしてやらない。