いつもは一般人が立ち入れないような空気に怖気づいてなかなか来ない母さんが久しぶりに来たコンクールだった。
家に帰ってトロフィーを見せた時も喜んでくれるけど、俺の演奏を間近で聴いて、その上で優勝できる方がずっといい。
そう思って、そう思ったから、俺は。
コンクールが終わった後、悔し涙しか出てこなかった。
俺の何が悪かった?
どこがあいつより劣ってた?
いろいろと取って付けたような文句を付けられて、それであいつより下なんてあり得ない。
あいつの演奏を聴いた。
目の前が真っ赤に染まるかと思うほど腹立たしかった。
緊張していることがありありとわかる、かたい指運び。
途中で指が転んだのは一度や二度じゃない。
なのになんで。
俺の方が、絶対上手かった!


