見つからないよう急いで個室に駆けこんだら、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。
自分が聞いた会話が信じられなくて、けれどこの動悸がそれを真実だと教えてくれる。
「何だよ、今の…」
そう呟いたことを覚えている。
そして、
「何でだよ……!!」
乾いてカラカラに掠れた声でそう叫んだことも。
信じてたのに、裏切られた。
だけど最後まで足掻いてみよう。
そんな思いを持ってやり遂げた演奏は、その時の俺の全力だった。
完璧に近かったと言ってもいい。
指も転ばなかった。
胸の中に渦巻くものをこらえて、感情だって目一杯表現した。
審査員が感嘆する声だって確かに聞こえた。
優勝するはずなのは俺に間違いなかった。
だけど、優勝したのはそいつだった。


