一般家庭である俺に与えられた服は、両親がせっせと働いた金でようやく買える程度の、裕福な人たちから見れば安物の服。

けれどピアノに見た目なんて関係ない。
腕さえよければ裸でだって弾かせてくれる。

俺は、ピアノのそういう所が好きだった。


でも周りにいるのは、小さな体には不釣り合いな何十万とするドレスやスーツを着飾った子どもたち。

小さい頃の俺は、あまりにも真っ直ぐだった。

ピアノの世界に必要なのは実力だけ。

本当に?本当にそうだったろうか。



「ママぁ。僕、優勝できるかなぁ」

「えぇ大丈夫よ。あなたならできるって…ママ、信じてるわ」

控室で繰り広げられていた、演技みたいな薄っぺらい会話。


演奏前にトイレに行った時、聞いてしまった母親の声。

「先生、今日の審査は…」

「わかっていますよ。あれだけもらったら、ねぇ…」

何をもらったかなんて、聞かなくても充分だった。