「自分の持つ技術を、後世に残したい。…そう言ったら?」

随分とナルシストな発言に鼻白んだが、駒田は引かなかった。

「違う。泉水先生はナルシストを気取っているけれど、自分は上手いんだって自慢しているように思えるけれど、本当はそうじゃない。ただのポーズです」


その瞬間、先生の声がキンと凍りつくように尖った。

まるでそれ以上の干渉を拒むように。



「どうしてそんなことが断言できるんだい…?」

さっきまで勢いのあった駒田の声が頼りなくしぼむ。
だけど彼は最後まで言いきった。

「…だって俺には、先生がもっと…心から、音楽を愛しているように思えます」

あなたが愛しているのは自分じゃなくて音楽でしょう?


そう呟かれた瞬間、先生の指が「あの」メロディを弾きだした。

「――っ」

「リーチ…?」

それは降り続ける雨の間に割って入るように強く、厳格な叫び。
俺の耳に何度も刷り込まれた曲。


「マゼッパ」――。