ピアノ椅子が軋む音がして、そこに先生が座ったのだとわかる。

一気に俺たちと近づいた距離に、体が硬くなった。


ポン、と小さく音が弾む。

「そんなことを聞いてどうするんだい?」

「…俺も、チューバの講師になりたいんです。だから」

その長い指で奏でられる和音が響く。

「へぇ、驚いたな。講師なんて、駒田くんみたいな技術の持ち主にはもったいない仕事だと思うけどね」


まったく驚いていないように平坦な声で先生が言い終わらないうちに、駒田が続けた。

「もったいないのは先生の方です。先生はコンクールでたくさん賞を取って世界に認められているのに、ほとんど表に出ようとしない。だから不思議で仕方ないんです。どうして泉水先生が講師になったのか」


ふと窓の外を見ると、降り続いていた雨は随分弱まっていた。