ドアが閉まる直前、険を含んだ声がする。
「アンタがつまんなそうに弾いてっから、つまんなく聞こえんじゃない?」
見せつけるようにひらりと揺れて消えていくスカート。
わかってるよ、わかってるから克服しようとしてるじゃないか。
何だ、何なんだよ、どうして放っておいてくれないんだよ!
振り返ればグランドピアノが俺を見つめている。
目なんてないはずなのにその視線がまるでさっきのあいつみたいに俺をバカにしているような気がして。
「くそ…っ」
どうしようもなく居たたまれなくて、蓋を乱暴に閉めると逃げるように部屋を飛び出した。
――かなりつまんない演奏だったね?
――お高くとまってんねぇ。
ムカつく、ムカつく、ムカつく。
胸の中に溜まった澱は消化不良のまま、行き場を失くした。


