けれど顔を上げて、俺はもっと驚く。

「…あんまじろじろ見ないでもらえる?」


奏の目も、真っ赤だった。

まるでウサギみたいな、いやそんな可愛げなんてこれっぽっちも無いけど、そう思えるぐらい赤かった。

派手な蛍光色の散る髪は、雨に濡れたせいで一段と暗く見えた。


「何かあったのか…?」

泣いているせいで奏はこっちをあまり見ようとしない。

だから俺の目が充血しているのにも気づいていないのか、何も言ってはこなかった。


いっぱいいっぱいに伸ばしたカーディガンの袖を目元に当てて何度も涙を拭っているせいで袖は真っ黒、目の周りもぐちゃぐちゃだ。

「タカがちょっと、さ」

タカ。
頭の中で復唱して思い当たるものがあることに気付く。

奏の彼氏だ。


「あんまりしつこいから、嫌になった」

嫌になったということは、自分から振ったということだろうか。

ならどうして泣いているのだろう。
俺にはその理由がさっぱり理解できない。