限界だった。
今までの自分の演奏を全否定された気がした。

奏みたいに真っ向から否定するんじゃない。

駒田の演奏が綺麗であたたかくて優しい光だとしたら、俺の演奏は醜くて冷たくて鋭い影だ。

それぐらい俺たちの間にはれっきとした差があった。


その上手さを自慢してくれたならまだよかった。

だけどあいつはそれすらしなかった。


人がいないのをいいことに、雨が降っているのをいいことに、涙は次から次へとこぼれていく。

だけど次の瞬間、俺はそれを嫌でも止めなければいけない状況に陥った。


「この暑いのに中庭なんて変わってんねぇ、リーチ」

「そ…っ」

奏!?

女子特有の高い声で、けど妙にサバサバした不思議な音程の声。


散々みっともない所を見せているのに泣いている所なんて絶対に見られたくなくて、俺は慌てて目をこすった。