「泉水先生の中にも、きっとそういう思いがあるはずだよ。北浜くんは違う?」
もうやめてくれ、そんな純粋な目で見るのは。
誰かを笑顔にするために弾いている駒田の音楽と違って自分のことしか考えていない俺の音楽は、聴く人の気持ちなんて考えてもいない。
――観客に精一杯の演奏をするのがピアニストってもんじゃないの。
思い浮かぶのは彼女のあの言葉。
あの時俺はなんて返した?
普通科に音楽科の苦労なんてわかってたまるかと、そうやって跳ね退けた気がする。
あの時の言葉はお前の言う通りだったよ。
今さら俺が認めても、奏はそんなこと覚えていないだろう。
「…俺は、違う」
そんなこと考えたこともなかった。
自分の演奏で誰かを笑顔にできるなんて発想、俺には無かった。


