雨は駒田の声をくるむようにそっと優しく地面に降り注ぐ。
だけど俺の心中はちっともそんな穏やかさを持っていなかった。
「何言って…。お前、自分が言ってること、わかってるのか?」
チューバの講師なんてやってどうするんだ。
プロの演奏家よりずっと収入は少ないし、活躍できる場だって限られている。
泉水先生だって今講師なんてしていなければ、もっともっと大きな舞台に立てるはずなのに。
どうしてそんなにすごい腕をみんなに知らしめようとしない?
俺には、その気持ちがわからない。
「有名になるためにこいつと一緒にいるわけじゃないんだ。俺は俺の音で少しでも多くの人に笑ってほしいから。…月並みな、理由だけどね」
いいや、充分だ。
月並みな言葉でも俺には充分響いてきた。
まるでチューバを相棒のように引き寄せる駒田を見て、自分の愚かさを思い知る。
俺は、あんな風にピアノと接してきたことがあっただろうか。


