脳裏に浮かぶのは実の弟の、底抜けに明るい笑顔。
あんな風に笑えたら、今こんなに胸の中がもやもやしたもので満たされることも無かったんだろうな。
音楽科棟に帰る足を進めていると、俺の耳に信じられない音が飛び込んできた。
「っ!?」
鼓膜に滑り込んでくる響き、地の底からあたたかく包み込むような重低音、流れるように軽く、それでいてどっしりとした重さを併せ持つ音。
何だこれ。
こんな音、聴いたことが無い。
プロの演奏家がレッスンに来てるのか?
いいや、連絡事項にそんな話は無かった。
大型金管楽器を専攻する生徒の練習所となっている第2会議室を開けると――。
「あれ、北浜くん?」
頭を金づちで殴られるより強い衝撃。
あまりの驚きに吐き気が込み上げそうで、喉の奥を飲みこんだ空気の塊がつっかえながら通って行った。


