なるべくこの強張った空気を吸い込まないようにゆっくりと息を吐き出して、俺は口を開く。
「今日他の奴と練習することになったけど、大丈夫か?」
「そう聞きたいのはこっちのセリフなんですけど。アタシこそ行ってだいじょーぶなの?」
「あぁ、それは…大丈夫だろ。多分」
駒田なら誰が入って来ても怒りはしない気がする。
俺が名前を忘れても怒らなかったぐらいだし。
「きゃはは、多分て!何その自信なさげな返事」
その笑顔がいつもよりぎこちない気がするのは俺だけなんだろうか。
気のせいならいい。
でもこんな雰囲気の中で奏が何も気付かないはずないだろう…?
「…それだけ。じゃあ」
そう言って背を向けようとした瞬間奏の瞳が揺らいだのはきっと、気のせいじゃない。
だけどここで立ち止まれるほど、俺だって人に優しくできるわけじゃないから。


