それを思い出したのは音楽論の授業の時だった。

「(…あ)」


絶えずシャーペンを動かしていた手を止め、今朝の会話を頭の中に反芻する。

今日は駒田と練習する約束をしたけれど、奏も練習室に来ると言っていた。

この授業が終われば昼休みに突入するし、一応言っておくか。


終業のチャイムが鳴ってすぐ、居心地の悪い普通科棟へと足を進める。

居心地が悪いのは音楽科の制服が普通科の中で浮くからじゃない。

もちろんそれもあるのだけど、

「奏」

「んん?なぁに、デートのお誘い?」


ケタケタ笑う奏が独りで席に座っている所を見るのが気持ち悪いからだ。

「バカか。そうじゃなくて放課後…」

「あー練習の話ね。何、やっぱダメ?」

俺が奏に話しかけた瞬間に一気に集まる視線が、奏が声を上げて笑った瞬間に一気に冷たく変わる温度が、怖い。


こんな空気の中で、彼女は息をしてきたんだ。