「悪い…」
思い出してみれば合ったのはつい最近だったような…。
いや、もしかして昨日会ったか?
昨日はいろいろなことがありすぎて脳の容量が足りない。
それ以前に、自分がどれだけ自分しか見えていないのかを思い知るんだ。
「いいんだ。それより、練習室の予約は取った?」
「いや、これから」
それを聞いて駒田の表情が緩んだ。
スポンジケーキのようにふわふわした黄色の頭はひよこにも似ている。
かなり目立つ色だが、染めているようには見えないから外国の血が混ざっているのだろうか。
「今日は俺と練習してくれない?」
返事に戸惑ったのは嫌だったからじゃない。
俺と駒田の技量に差が無いかどうか、それだけが不安だった。
俺の名前は音楽科中に知れ渡っている(と思う)が、俺は今まで駒田の名前さえ知らなかった。
ピアノとチューバという楽器の違いを差し置いても、だ。


