泉水先生の笑顔は依然として変わらない。
だけど、その言葉に含まれるものは目を見張るほどに変わっていた。
「君ってほんと、かわいくないね」
「ありがとうございます」
かわいいなんて言われるのも虫唾が走るし、思われたくもない。
けれど彼はそんなつもりでそれを口にしたわけではないらしい。
「言ってしまえば子どもらしさが無い。それは、君みたいな若いピアニストにとって致命傷だよ」
それはあくまでピアノへの技術に繋がる、アドバイスとして俺に捧げられた言葉。
子どもらしさ？
それは持ってはいけないものの間違いなんじゃないか？
「音楽に必要なのはテクニックだけじゃない。人生経験だって重要な音楽の一部だよ。積み重ねてきた苦労、悲しみ、幸せが音楽により分厚い層を重ねてくれる」
感情を込めるのが大事だとは逐一言われてきた。
けれどそうか、確かに。
実体験が無ければ曲の感情に共感しようがないのかもしれない。
