けれど泉水先生は別段苛立ったり失望する様子もなく、微笑むだけだった。
「それはどうして?」
「だって俺たちは放課後に遊んだりなんてしないのに」
練習に打ち込むしかない、色の無い放課後。
対して、自分の好きなことに時間と労力をつぎ込める多彩な放課後。
どちらがいいかと問われたら、それは。
「羨ましい?」
「羨ましい…?」
どちらがいいかと、問われたら――?
返答にしばし悩んで地面と睨みあった後、俺はゆっくりと顔を上げる。
「そうですね、そういう気持ちもあります」
彼の顔がどんどん楽しそうに笑みを広げていく。
「だけど音楽科を選んだ以上、そんな放課後は送れないとわかっていた。だから俺は帰って練習することにします」
そんなに色鮮やかな放課後を送りたいのなら普通科を選べばよかったんだ。
すべてを犠牲にしてまで将来に繋げたい覚悟があるから、俺は今音楽科にいる。


