「まったデートだってさ。なんなのって感じよ」

聞くだけだと自慢にしか聞こえないセリフも、顔を見ると本当にうんざりしていることがわかる。

「じゃあまたね、リーチ。ジボージキにならないように気を付けなよ!」


ファンデーションを塗りたくった白い頬がドアの向こうに消えていく。

なんなの、はこっちのセリフだ。
散々振り回して混乱させた挙句、彼氏とデートで途中退場なんてありえない。


「あったま悪そうな発音…」

自暴自棄なんて、小学生でも何となくはわかるだろうに。


けれどはっきり突き付けられた正論に、あいつが本当にバカなのか疑問に思えてくる。

もっともそれは、どういう奴をバカとするかによる世間の基準から外れた考え方なんだろうけど。


タン……

ピアノの鍵盤を叩く指はさっきより重く、カバンを背負って立ちあがった足はさっきより軽い。