だけど俺も、普通科の苦労を知らずに見下していたんだ。
普通科の苦しみと音楽科の苦しみはまったくレベルが違うように思えるけれど、そうじゃない。
苦しみのレベルなんて付けられるわけがないんだ。
当事者にとって、他人のことなんてわかりっこないのだから。
口を開きかけたその時、耳障りな電子音が響いた。
眉をひそめる俺に構わず、奏がポケットからケータイを取り出す。
「あぁごめん、彼氏から電話」
学校では電源を切るのがマナーだろう。
そう思うのだが、こいつには何を言っても通用しそうにない。
「タカ、どしたの?え、またぁ?昨日も行ったばっかじゃん。まぁいいや。うん、はぁい」
タカというのが彼氏の名前だろうか。
考える間もないほどすぐに通話は終わったらしい。
スライド式のケータイを畳む音が聞こえた。


