悪くない演奏だとは思っていた。

こいつに聴かせるには充分な程度の演奏だと。


だけど奏は楽しそうな顔もうれしそうな顔もまったくしていなかった。

こぼれた言葉はただひとつ。


「手、抜いたよね」

ばれた、と思った。


確かに本気で弾こうとはしなかった。

だけどそれはたかが普通科の生徒に本気と手抜きの演奏の違いがわかるはずもないと考えたからだ。

普通科の生徒相手に本気を出して何になると、バカにしていたからだ。


「あのさぁ、わかるんだよ。リーチがアタシに本気で聴かせようとしてるのかぐらい」

バカにしないでくれる?

諦めたような見下すようなその視線が、何より痛かった。