振り返ると、さっきこっちを見てた男はいなくなってた。
なぁんだ、残念。
もうちょっとリーチを妬かせる材料になって欲しかったのに。
「それにしても…」
照れ隠しかケータイをいじる指は、ピアノばっかり練習してるせいで長くてゴツゴツしてる。
女遊びなんて言葉も知らないような、生真面目な手。
「お前がまさか児童教育学科に行くとはな」
まさか?
アタシにそうさせたアンタが言うなんて、びっくりだわ。
「将来、保育士になろうと思って。アタシにしては現実的な夢じゃない?」
それにアタシ、忘れてないのよ。
女って執念深いんだから。
「下手くそだって言われたピアノも、いっぱい練習してる」