「じゃあアンタが弾いてよ」
「あんたじゃなくて利一だ」
言ってからしまったと後悔する。
別に俺は名字で呼ばれることに何の不服も無いのに、どうして奏につられて名前呼びを命令してしまったのか。
それに気付いたのか気付いてないのか奏は口の両端を吊り上げて笑った。
グロスでテカテカの唇が艶めく。
「思ったんだけどさ、リーチって惜しい名前じゃんか。なんでビンゴじゃねぇの?」
「知るかそんなの」
言いながら俺は奏を退けさせ、椅子の中央に座る。
行き場がなくなった奏は床にしゃがみ込んでふくれっ面だった。
「主よ人の望みの喜びよ、でいいんだな」
「早くー」
こんな奴に聴かせる音楽なんて無い。
だからさっさと終わらせてしまえばいい。


