ゆらゆら揺れながら、それでも何かにしがみつこうとする意志の強い声。
「だって言えなかった。言ったらリーチは自分が悪いと思うから。最初に言っとくよ、リーチは絶対に悪くない」
俺に力強く念を押して彼女が何度か胸を上下させる。
ゆっくりと瞬きをした後に開かれた目は、ロビーの豪華な雰囲気にも負けない存在感を持っていた。
「アタシはみんなに嫌われてるって知ってたけど、アタシと一緒にいるせいでリーチまで悪く言われるなんて思ってもみなかった」
それは大人から見れば、第三者から見れば些細な、取るに足らないこと。
だけど学校という狭い世界でそれを気にしないでいられる人なんて、無に等しい。
それぐらい同じ学校、同じ棟、同じクラスの人の存在は俺たちにとって重いものだ。
「聞いちゃったんだよ。“北浜くんって増原さんみたいな人と一緒にいるんだね、もしかしてそーゆー系の人?”って」
今すぐにでも奏にそれを言った奴を聞きだして、殴りに行きたかった。
短絡的だとしてもそう思ってしまうぐらい、その言葉は揺るぎない悪意を持っていた。


