その後鉢合わせた母さんが家まで送ると言うのを断ってロビーに出ると、退屈そうに足をぶらぶらさせながら椅子に座る彼女がいた。
カフェオレ色の髪、派手な蛍光色のメッシュ、それらは変わらないのに今日はメイクがいつもより薄い気がする。
その面影に、あの雨の日涙を流したスッピン同然のあの顔を思い出した。
長い髪がゆっくりと翻り、大きな目がこちらへ向けられる。
「リーチ!」
そう言ってなりふり構わず大きな動作で手を振る姿は、高貴なロビーの雰囲気にはおよそ似つかわしくない。
何だか恥ずかしくなって早足で近寄ると、彼女は薄い唇を歪ませてむくれていた。
「なぁんで追い出されなきゃいけないのぉ?アタシ何も悪いことしてないじゃんね?」
「いや、悪いことだろ…」
少なくとも今まで、あんな暴挙に出た人はいないだろう。
現に側で控えていたスタッフもとてもうろたえていた。
この猛獣の扱い方がよくわからない、と説明書を探すように。


