眉を下げて心の底から安心したように笑う駒田を見ていたら、腹を立てていたこともバカらしくなってくる。

こいつより、もっと厄介な奴がいるんだから。

「あ、そういえば奏ちゃんすごかったね、いきなり入って来て」


鼓膜に残るのは声の限りを尽くして投げつけられた彼女の言葉。

最後まで弾いたよ。
もう以前聴かせたような演奏はしないと決めたよ。

そう言いたいのに、俺はこのドアの外へ行くことをためらっている。


「よっぽど好きなんだね」

「…っ何、が」

飛び出しそうになる心臓を抑えつけながらたどたどしく言うと、駒田は目を細めてささやいた。


「だってさっきの自由曲は、奏ちゃんに向けて弾いたものでしょう?」

きっと聴いてた人、みんなわかってるよ。

付け足された言葉に頭を抱えたくなる。
違うなんて反論を呟くには、この感情は大きすぎた。