入賞者それぞれにトロフィーを渡してくれたのはバスキーだった。
喜びと興奮で、受け取る手が震える。
「Thank you.I'm your…your fan.」
カタコトの英語でどうにかバスキーのファンであることを告げると、彼は目尻を下げておかしそうに笑った。
「ははは、日本語で大丈夫だよ」
彼の口から出てきた日本語は流暢で淀みなく、困惑してしまう。
彼の髪は白の混じった金色で、深緑の目も日本人のものとはかけ離れていたから。
「妻が日本人なんだ。それに私自身も日本が大好きでね」
「だけどテレビで…」
そうだ、テレビでインタビューに答えていた時、バスキーは英語をしゃべっていた。
日本語で字幕が出ていたのをはっきりと覚えている。
「外人なのに日本語がペラペラだなんて逆に変だから、テレビでは英語を使えと言われているんだ」
そう言いながら肩を竦める姿は一流ピアニストではなく、普通のおじいさんだった。


